ソニーも「リブリエ」と名づけた読書専用端末を出した。電子出版会社も設立し、二〇〇四年春から電子書籍配信サービスを始めた。リブリエの試みについて私は、「消耗品であることを肯定した電子書籍」などと意地の悪いタイトルの原稿を書いたが、シグマブック以上の問題が感じられた。このころには電子書籍のフォーマットを共通化して広く使えるようにするという動きが出始めていたにもかかわらず、「BBeB」と名づけたソニー独自の電子書籍の規格と著作権保護技術を使うのは時代に逆行しているように思われた。しかしもっとも驚いたのは、この電子書籍が会員制で「レンタル」だという点だった。二ヵ月経つと自動的に閲覧できなくなった。本の歴史を振り返って「本は記録装置としての役目をになってきた」などと書いた本まで出していた私は、正直なところ唖然とした。「紙の本はかさばって保存するのはたいへんだが、デジタルなら場所をとらない」というそれまでの電子書籍の謳い文句はいったいどこへ行ったのかと思った。たしかに図書館だって本を貸しているし、本のレンタルーチェーン店もあるが、デジタルはいうまでもなくいくらでもコピー可能だ。「返したから読めない」のではなくて、著作権保護の都合で「読めなくしただけ」ということは誰だってわかる。デジタル化する大きな長所をこの電子書籍は供給側の都合で否定してしまっていた。とはいえ、電子書籍が長持ちするというのは少なくとも今のところ幻想だ。パソコン始め電子書籍を読む装置はどんどん変わるし、フォーマットだって変わる。購入した電子書籍が将来も読める保証はどこにもない。だからこそなおのこと一社がサポートをやめればそれで終わり、という仕組みにすべきではないのだが、ともかく読めなくなる早さは紙の比ではない。だから、「レンタル」にしてそのぶん安く売ったほうが読者にも親切だという理屈はとりあえず成り立つかもしれない。また書籍の市場は九〇年代半ばがピークでそれ以後、縮小している。本はもはや末永く売るといった悠長なものではなくなってきた。短期間にばっと売って品切れになる。読み手の側も流行りの本に殺到する傾向が強まり、そうした本の大半は読み返されることがない。ソニーのこの電子書籍は、変化の激しいデジタル技術の現状と、本が消耗品化していくネガティヴな出版状況を、はなはだ残念ながら反映しているように思われた。この事業が発表になり、「来年はいよいよ電子書籍元年か」と書いたメディアもあったが、私にはそんな華々しいものにはとても思えなかった。二ヵ月で消えてなくなる電子書籍にはそもそも出版の志が感じられなかったし、ビジネスーモデルとしても数々の困難が感じられた。うまくいったらいったで、言論活動が一電器メーカーに左右されかねないかつてない事態が出現する恐れもあった。
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